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社会保険の基礎

社会保険における通勤災害の取扱いを全従業員に周知している会社は、全くないに等しいのが現状です。
従業員が、通勤時の注意点等を理解することも大切です。

1. 通勤災害の取扱いについて

「健康保険法第59条の7」または「日雇労働者健康保険法第18条第1項」の規定により、通勤災害として給付しないものは、当該事故が通勤災害の範囲に該当するものであるほか、当該被保険者が使用される事業所につき労災保険が適用され、または適用されるべき場合です。

なお、当該事業所につき労災保険が適用されるべきであるにもかかわらず、その適用が行われていない場合に、その間に発生した通勤災害については、遡って労災保険から給付されます。

さらに、労災保険の任意適用事業所(労災保険法の一部を改正する法律「昭和44年法律第83号」附則第12条)に使用される被保険者に係る通勤災害については、それが労災保険の保険関係の成立の日前に発生したものであるときは、健康保険等で給付されます。ただし事業主の申請により、保険関係成立の日から労災保険の通勤災害の給付が行われる場合は、この限りでありません。

(昭和48年12月1日 保険発第105号・庁保険発第24号より)

2. 通勤災害の範囲について

通勤災害については、労災保険法第7条第1項第2号において「労働者の通勤による負傷、疾病、障害又は死亡」をいうものと定義されています。
また通勤については、同条第2項及び第3項において次のとおり定義されています。

「前項第2号の通勤とは、労働者が就業に関し、住居就業の場所との間を合理的な経路及び方法により往復することをいい、業務の性質を有するものを除くものとする。労働者が前項の往復の経路を逸脱し、または同項の往復を中断した場合においては、当該逸脱または中断の間、及びその後の同項の往復は、第1項第2号の通勤としない。ただし当該逸脱または中断が、日用品の購入その他これに準ずる日常生活上必要な行為をやむを得ない事由により行なうための最少限度のものである場合は、当該逸脱または中断の間を除き、この限りでない。」

(昭和48年11月22日 基発第644号)

3. 「通勤による」の意義

「通勤による」とは通勤と相当因果関係のあることです。つまり通勤に通常伴う危険が具体化したことをいいます。

(昭和48年11月22日 基発第644号より)

【通勤中に発生した災害で通勤によるものと認められる例】
  1. 通勤の途中において、自動車にひかれた場合
  2. 車が急停車したため転倒して受傷した場合
  3. 駅の階段から転落した場合
  4. 歩行中にビルの建設現場から落下してきた物体により負傷した場合
  5. 転倒したタンクローリーから流れ出す有害物質により急性中毒にかかった場合
【通勤中に発生した災害で通勤によるものと認められない例】
  1. 自殺の場合
  2. 被災者の故意によって生じた災害
  3. 通勤の途中で怨恨をもってけんかをしかけて負傷した場合

4. 「就業に関し」の意義

「就業に関し」とは、往復行為が業務に就くため、または業務を終えたことにより行われるものであることを必要とする趣旨を示すものです。つまり通勤と認められるには、往復行為が業務と密接な関連をもって行われることを要することを示すものです。

  1. ここで、まず労働者が被災当日において業務に従事することになっていたか否か、または現実に業務に従事したか否かが問題となります。

【業務である例】
  1. 所定の就業日に所定の就業場所で所定の作業を行うこと
  2. 事業主の命によって物品を届けに行く場合
  3. 本来の業務でなくとも、全職員について参加が命じられ、これに参加すると出勤扱いとされるような会社主催の行事に参加する場合
  4. 事業主の命をうけて得意先を接待し、あるいは得意先との打合せに出席するような場合
  5. 会社のレクリエーション行事であっても厚生課員が仕事としてその行事の運営にあたる場合
  6. 労働者が労働組合大会に出席するような場合で、労働組合に雇用されていると認められる専従役職員については、就業との関連性が認められる
【業務とならない例】
  1. 休日に会社の運動施設を利用しに行く場合
  2. 会社主催ではあるが参加するか否かが労働者の任意とされているような行事に参加するような場合
  3. 事業主の命によって労働者が拘束されないような同僚の懇親会、同僚の送別会への参加等
  4. 労働者が労働組合大会に出席するような場合で、一般の組合員については就業との関連性は認められない
  1. (イ)次にいわゆる出勤の場合の就業との関連性
【関連性がある例】
  1. 所定の就業日
  2. 労働者については、継続して同一の事業に就業しているような場合は、就業することが確実であり、その際のいわゆる出勤は、就業との関連性が認められる
  3. 公共職業安定所等で、その日の紹介を受けた後に紹介先へ向う場合で、その事業で就業することが見込まれるときも、就業との関連性を認める
  4. に所定の就業開始時刻を目途に住居を出て就業の場所へ向う場合は、寝すごしによる遅刻、あるいはラッシュを避けるための早出等、時刻的に若干の前後があっても就業との関連性がある
  5. 日々雇用される
【関連性がない例】
  1. 運動部の練習に参加する等の自的で、例えば午後の遅番の出勤者であるにもかかわらず、朝から住居を出る等、所定の就業開始時刻とかけ 離れた時刻に会社に行く場合
  2. 公共職業安定所等でその日の紹介を受けるために住居から公共職業安定所等まで行く行為は、未だ就業できるかどうか確実でない段階であり、職業紹介を受けるための行為であって、就業のための出勤行為であるとはいえない

(ロ)次にいわゆる退勤の場合

【関連性がある例】
  1. 終業後ただちに住居へ向う場合。日々雇用される労働者の場合も同様
  2. 所定の就業時間終了前に早退をするような場合であっても、その日の業務を終了して帰るものと考えられるので、就業との関連性を認められる
  3. 通勤は1日について1回のみしか認められないものではないので、昼休み等就業の時間の間に相当の間隔があつて帰宅するような場合には、昼休みについていえば、午前中の業務を終了して帰り、午後の業務に就くために出勤するものと考えられるので、その往復行為は就業との関連性を認められる
  4. 業務の終了後、事業場施設内で囲碁、麻雀、サークル活動、労働組合の会合に出席をした後に帰宅するような場合には、社会通念上就業と帰宅との直接的関連を失わせると認められるほど長時間となるような場合を除き、就業との関連性を認めてもさしつかえない

(昭和48年11月22日 基発第644号)

5. 「住居」の意義

「住居」とは、労働者が居住して日常生活の用に供している家屋等の場所で、本人の就業のための拠点となるところをさすものです。

【住居と認められる例】
  1. 就業の必要性があって、労働者が家族の住む場所とは別に就業の場所の近くに単身でアパートを借りたり、下宿をしてそこから通勤しているような場合
  2. 通常は家族のいる所から出勤するが、別のアパート等を借りていて、早出や長時間の残業の場合には当該アパートに泊り、そこから通勤するような場合には、当該家族の住居とアパートの双方が住居と認められる
  3. 長時間の残業や、早出出勤等の勤務上の事情や、交通ストライキ等交通事情、台風などの自然現象等の不可抗力的な事情により、一時的に通常の住居以外の場所に宿泊するような場合には、やむを得ない事情で就業のために一時的に居住の場所を移していると認められるので、当該場所を住居と認めてさしつかえない

【住居と認められない例】
  1. 友人宅で麻雀をし、翌朝そこから直接出勤する場合等は、就業の拠点となっているものではないので、住居とは認められない

(昭和48年11月22日 基発第644号)

6.「就業の場所」の意義

「就業の場所」とは、業務を開始しまたは終了する場所をいいます。

【就業の場所の例】
  1. 本来の業務を行う場所
  2. 物品を得意先に届けてその届け先から直接帰宅する場合の物品の届け先
  3. 全員参加で出勤扱いとなる会社主催の運動会の会場等
  4. 外勤業務に従事する労働者で、特定区域を担当し、区域内にある数か所の用務先を受け持つて自宅との間を往復している場合には、自宅を出てから最初の用務先が業務開始の場所であり、最後の用務先が業務終了の場所と認められる

(昭和48年11月22日 基発第644号)

7. 「合理的な経路及び方法」の意義

「合理的な経路及び方法」とは、当該住居と就業の場所との間を往復する場合に、一般に労働者が用いるものと認められる経路及び手段等をいいます。

  1. これをとくに経路に限っていえば、

【合理的な経路の例】
  1. 乗車定期券に表示され、あるいは会社に届出ているような鉄道、バス等の通常利用する経路及び通常これに代替することが考えられる経路等
  2. タクシー等を利用する場合に、通常利用することが考えられる経路が2、3あるような場合には、その経路はいずれも合理的な経路となる
  3. 経路の道路工事、デモ行進等当日の交通事情により迂回してとる経路、マイカー通勤者が貸切の車庫を経由して通る経路等通勤のためにやむを得ずとることとなる経路は合理的な経路となる
  4. 他に子供を監護する者がいない共稼労働者などが託児所、親せき等に子供をあずけるためにとる経路などは、そのような立場にある労働者であれば、当然就業のためにとらざるを得ない経路であるので、合理的な経路となるものと認められる

【合理的な経路とならない例】
  1. 特段の合理的な理由もなく著しく遠まわりとなるような経路をとる場合
  2. 経路は、手段とあわせて合理的なものであることを要し、鉄道線路、鉄橋、トンネル等を歩行して通る場合は、合理的な経路とはならない
  1. 次に合理的な方法について
【合理的な方法の例】
  1. 鉄道、バス等の公共交通機関を利用し、自動車、自転車等を本来の用法に従つて使用する場合
  2. 徒歩の場合
  3. 通常用いられる交通方法は、当該労働者が平常用いているか否かにかかわらず一般に合理的な方法と認められる
【合理的な方法とならない例】
  1. 免許を一度も取得したことのないような者が自動車を運転する場合
  2. 自動車、自転車等を泥酔して運転するような場合
  3. 軽い飲酒運転の場合、単なる免許証不携帯、免許証更新忘れによる無免許運転の場合等は、必らずしも合理性を欠くものとして取扱う必要はないが、この場合に諸般の事情を勘案し、給付の支給制限が行われる

(昭和48年11月22日 基発第644号)

8.「業務の性質を有するもの」の意義

「業務の性質を有するもの」とは、上記の要件をみたす往復行為ですが、当該往復行為による災害が業務災害と解されるものをいいます。

【業務の性質を有する例】
  1. 事業主の提供する専用交通機関を利用してする通勤
  2. 突発的事故等により緊急用務のため、休日または休暇中に呼出しを受け、予定外に緊急出勤する場合

(昭和48年11月22日 基発第644号)

9. 「逸脱」、「中断」及び「日用品の購入その他これに準ずる日常生活上必要な行為をやむを得ない事由により行うための最少限度のもの」の意義

  1. 「逸脱」とは、通勤の途中において就業または通勤とは関係のない目的で合理的な経路をそれることをいいます。
    「中断」とは、通勤の経路上において通勤とは関係のない行為を行うことをいいます。
【逸脱・中断とならない例】
  1. 労働者が通勤の途中において、経路の近くにある公衆便所を使用する場合
  2. 帰途に経路の近くにある公園で短時間休息する場合
  3. 経路上の店でタバコ、雑誌等を購入する場合
  4. 駅構内でジュースの立飲みをする場合
  5. 経路上の店で渇をいやすため極く短時間、お茶、ビール等を飲む場合
  6. 経路上で商売している大道の手相見、人相見に立寄つて極く短時間手相や人相をみてもらう場合
【逸脱・中断の例】
  1. 通勤の途中で麻雀を行う場合
  2. 映画館に入る場合
  3. バー、キャバレー等で飲酒する場合
  4. デートのため長時間にわたってベンチで話しこんだり、経路からはずれる場合
  5. 経路からはずれ、または門戸をかまえた観相家のところで、長時間にわたり、手相、人相等をみてもらう場合
  1. 通勤の途中において、労働者が逸脱、中断をする場合には、その後は就業に関してする行為というよりも、むしろ、逸脱又は中断の目的に関してする行為と考えられるので、その後は一切通勤とは認められないのですが、これについては通勤の実態を考慮して法律で例外が設けられ、通勤途中で日用品の購入その他日常生活上必要な行為をやむを得ない事由により最少限度の範囲で行う場合には、当該逸脱または中断の間を除き、合理的な経路に復した後は通勤と認められることとされています。
【「日用品の購入その他これに準ずる日常生活上必要な行為」の具体例】
  1. 帰途で惣菜等を購入する場合
  2. 独身労働者が食堂に食事に立ち寄る場合
  3. クリーニング店に立ち寄る場合
  4. 通勤の途次に病院、診療所で治療を受ける場合
  5. 選挙の投票に寄る場合
  1. 「やむを得ない事由により行うため」とは、日常生活の必要から通勤の途中で行う必要のあることをいいます。
  2. 最少限度のもの」とは、当該逸脱または中断の原因となった行為の目的達成のために必要とする最少限度の時間、距離等をいうものです

(昭和48年11月22日 基発第644号)